近年、製造業を含むさまざまな事業において、「SCM(サプライチェーンマネジメント)」という概念が注目を集めています。そもそも「SCM」とはどのような意味を持つのでしょうか?今回はSCMの概念から、ERPとの違い、導入ステップまでお話しします。
SCMとは
SCMとは英語の「Supply Chain Management(サプライチェーンマネジメント)」の頭文字を取った略語です。ここではSCMの概念、注目される背景などをご紹介します。
サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、原材料が調達されてから商品が消費者に渡るまでの生産・流通プロセスのことを指します。たとえば、原材料・部品調達 → 生産 → 物流・流通 → 販売という一連の流れはサプライチェーンの一例です。
SCMはサプライチェーンそれぞれのステップにある情報を共有し、管理の最適化を目指します。最適化の範囲はサプライヤー、メーカー、物流、小売の関係性1つ1つではなく、サプライチェーン全体となります。
SCMの広まり・注目される背景
近年、SCMが注目されている背景には、「IT技術の革新」と「グローバル化に伴う生産拠点の分散化」2点があげられます。
①IT技術の革新
現在はIT技術が大幅に進歩し、SCMに生かせるさまざまなIT技術が実用化されたことが、SCMの手法を見直すきっかけとなりました。
たとえば、IoTによるリアルタイムな情報収集、ビッグデータの分析、AIによる需要予測などです。これらの新たなIT技術の活用で、今まで以上に強固なサプライチェーンを構築しよう企業が増えています。
②グローバル化に伴う生産拠点の分散化
企業のグローバル化が進み、生産、調達、販売をめぐる世界規模のネットワークが構築されるようになりました。たとえば、東南アジアの工場で製造し、日本の市場に向けて販売するケースが数多くあります。世界中に分散した生産拠点を合理的にマネジメントするためには、サプライチェーン全体の連携管理が必要となります。連携がスムーズに進まないと、価格やリードタイムの面で競合に差別化されてしまう可能性が高まります。そのためSCMの重要性がますます高まっています。
SCMとERPの違い
続いて、混同されがちなSCMとERPの違いについて説明します。
前述のとおり、SCMとは供給側から最終消費者へのプロセスを見直し、効率化を実現するためのマネジメント手法です。ERPとは「Enterprise Resources Planning」の略語であり、日本語では「企業資源計画」と訳され、ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源を一元管理し、企業の基幹業務情報を統合的に管理する考え方です。
SCMとERPの決定的な違いは対象となる管理領域です。SCMは企業経営における調達から販売までのプロセスに限定して管理するのに対し、ERPは企業経営全体にまで及びます。つまり、SCMが「供給の最適化」という部分最適であるのに対し、ERPは「企業経営の最適化」という全体最適を目指すマネジメント手法となります。
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SCMに求められるマネジメント
SCMには「予測・計画」「実行・実施」「評価・モニタリング」という、3つのマネジメントサイクルが発生します。
予測・計画業務
予測・計画業務とは、どのような商品がどれぐらい販売できるかを予測し、その結果を元に商品の仕入や生産の計画を立案することです。たとえば、スーパーやコンビニなどは過去や直近の販売実績を分析し、最適な商品補充量を計算することが予測・計画業務に該当します。欠品を生じさせず、在庫過多の状態を避けることが目的です。
実行・実施業務
予測・計画のあとには、実行・実施業務に移ります。実行・実施業務とは、立てた計画を円滑に進めていく段階です。たとえば、販売実績のデータに基づいて発注した後、倉庫からスピーディーにモノを運び、商品を補充することが該当します。この業務は、モノの流通に結び付く一連のプロセスのなかで特に重要だと言われます。
実行・実施に対する評価・モニタリング
最後に、実行・実施した計画が結果的にどのようになったのかを評価・モニタリングします。たとえば、計画どおりに商品が販売できたのか、あるいは在庫・欠品になっていないかをチェックする業務がこれに該当します。評価・モニタリングは今後の予測・計画業務でつながる改善ポイントの洗い出しにもなるため、非常に重要な位置づけとなります。
SCMのメリット
コストカット
企業にとって、利益の最大化が重要な経営目標となります。そのため、コストの削減はどの企業に対しても重要な課題です。SCMの導入によって、サプライチェーンの最適化と、業務プロセスの可視化によってコストカットを実現できます。
たとえば、一つの配送業者が複数の小売店舗に対して商品を運送する場合、各店舗が必要な量・種類を明確化にすることで、合理的な配送ルートを設計することができ、配送回数を減らすこともできます。それによって、輸送費の削減を実現可能です。
在庫の最適化
過剰在庫はキャッシュフローを悪化させ、企業の資金繰りを圧迫します。逆に、在庫が不足すると、販売機会の損失を招きます。在庫数は、多すぎず少なすぎず、適切な量を確保しなければなりません。SCMはサプライチェーンを可視化し、原材料や製品の在庫状況をリアルタイムで把握できます。前述の予測・計画業務の精度が高められ、在庫の最適化を実現します。
情報の一元管理によるリソース最適化
サプライチェーンの全体の情報が一元化されることで、業務プロセス全体を俯瞰して見渡せるようになります。それによって、課題や問題を早期に発見しやすくなります。たとえば、原材料の調達が適切におこなわれているのかなどの課題が可視化されます。
さらに、SCMは人手不足の改善にも貢献します。人口減少と少子高齢化の影響を受け、多くの企業が深刻な人材不足に陥っています。特に製造業はその傾向が顕著な業界です。経済産業省が発行する「2020年版ものづくり白書」によると、大企業の41.9%が人手不足に陥っているという結果が出ました。SCMの構築によって、人員を投入すべきタイミングを把握できるため、人的リソースのムダを無くし、最大限活用できるよう最適化できます。
参考:2020年版 ものづくり白書 「概要」 – 経済産業省-
SCMのデメリット
導入時にコストがかかる
SCMを構築する際に、最も大きなデメリットとなるのが導入コストです。SCMはサプライチェーン全体の流れを管理するため、その対象は子会社や関連会社などさまざまな企業まで広がり、自社内で完結するものではありません。そのため、非常に複雑かつ大規模なITインフラが求められます。さらに、導入後のシステムの運用・保守における管理費用も必要となるので、導入コストは高額となります。
効率化に偏りすぎると広い顧客にリーチできなくなる
SCMはサプライチェーンに関する情報の一元管理で、業務効率向上に貢献できます。しかし、在庫管理など一部の効率化に偏りすぎると視野が狭くなり、新しいビジネスチャンスを逃してしまうケースも発生します。なので、より広い顧客にリーチするために、市場を俯瞰して大局的な視点を持つことが必要です。変化が激しいビジネスの世界において、効率化を重視しつつ、視野を広げてビジネス全体の最適化を意識することが不可欠だと考えられます。
SCM導入から運用までのステップ
つづきまして、SCMシステム導入から運用までのステップをご説明します。
解決すべき課題、目的を設定する
まずは現在の状況をしっかり把握します。SCM導入の目的や自社が改善したい課題を事前に洗い出しましょう。目的と課題を踏まえて、具体的な方針や進め方を検討します。自社が直面する課題を明確化することで、導入や運用に必要な人員の検討、役割分担も検討しやすくなります。
SCMの担当者を決定する
プロジェクトを順調に進めるには、適切な担当者の決定が必要です。前述のとおり、SCMは子会社や関連会社などさまざまな企業が関わる大きなプロジェクトです。なので、SCMに関わる担当者の決定は慎重におこなわなければなりません。そのためには、担当者やチームに求められるアクションを確認し、役割の分担を可視化し、最適な人員を確保できるよう準備することも重要です。
各サービスの比較検討をおこなう
そして、各サービスの比較・検討をおこないます。SCMでもサービスごとの特長があります。自社の要件によって適切な製品・サービスも異なるため、冒頭のステップで洗い出した解決すべき課題をもとに、的確に解決できそうな製品・サービスをピックアップしましょう。また、SCM導入の初期費用は高額になるため、コスト面も検討してみましょう。
導入し、効果測定をおこなう
最後は導入と効果の測定をおこないます。SCMの導入によって想定どおりの改善が期待できるかどうかを測定します。たとえば、実施すべき項目を具体的に実現可能なスケジュールに落とし込めるか、経営目標に結び付けられるかどうか、導入に必要なコストや人員がまかなえるのかなどをチェックします。SCMの導入は生産・在庫の最適化を目指すだけではありません。経営の全体像も意識するようにして、経営の最適化を目指しましょう。
まとめ
企業が市場競争の優位性を確立するために、サプライチェーン全体の最適化が求められています。SCMの導入で生産・流通プロセスの可視化ができ、関連情報の一元管理ができるなどさまざまなメリットがあります。自社に合ったサービスを活用し、経営の最適化を実現してみませんか?
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この記事の執筆者:楊 溢(マーケティング本部)
新卒でドリーム・アーツに入社。
2021年からマーケティンググループの一員になりました。
記事執筆は初心者ですが、より皆様のお役に立てる情報を発信していきたいと思います!